平城宮跡

1月8日、朝8時 奈良・平城宮跡の広い平地は霧に覆われて まさに夢の中に佇むごとく
人気がない野原に甲高い鳥の鳴き声 キーン、カケーン
霧の中にうかぶ大樹は 鳥の仮宿
雲間からかすかに光る太陽は 古と同じものなのか
白い景色は1300年前の都を想う舞台のようでした。





古の都

6世紀の終わりからおよそ100年間、天皇の宮殿は飛鳥のせまい平地にありました。天武天皇は、これをあらため、宮殿と役所を中心に置き、それらをとりまく壮大な人工計画都市・藤原京を、飛鳥の北西の平野にに建設しました。しかし、この都は欠陥があることがわかり、わずか16年で放棄されました。そして、710年、奈良盆地の北端に、唐の都・長安を模して平城京がつくられました。平城京は710年から74年間続きますが、奈良時代の中ごろ、聖武天皇のときに恭仁京難波京紫香楽宮と都を転々移します。784年には長岡京に都が移り、794年には平安京に都が移り、再び平城京に都がもどることはありませんでした。
復元された平城京朱雀門



朝の光りの中で 平城宮跡の平原に立つと 「まだ失われていないもの」を感じることがあります。
「まだ信じられるもの」があるように感じます。それらのものを 丁寧に、一所懸命に探したいという気持ちが生まれてきます。

まだ失われていないもの

何かがちがってくる。
風があつまってくる。
陽差しがあつまってきて、
やわらかな影が、 そこにあつまる。


見えないものがあつまってくる。
ふと、騒がしさが遠のいて、
それから、音もなく
明るい塵があつまってくる。


すべてが、そこにあつまってくる。
花のまわりにあつまってくる。
ふしぎだ、花は。
すべてを、花のまわりにあつめる。


匂いのように、時間が
蜜のように、沈黙が
あつまってくる。
ことばをもたない真実がある。



空の色、季節の息があつまってくる。
花がそこにある。それだけで
ちがってくる。ひとは
もっと素直に生きていいのだ。   

長田弘「まだ失われていないもの」より